「肥満は薄毛になる」「痩せたら薄毛が治った」などの話を聞いたことがある方もいるかもしれません。実際に肥満と薄毛には、深い関係があるといわれています。

本記事では、肥満がなぜ薄毛につながるのか、メカニズムを詳しく解説します。また、肥満と薄毛を予防するための具体的な対策も紹介します。

最後まで読めば、肥満と薄毛の関係性について深く理解でき、今後の適切な対策がわかるようになるでしょう。ぜひ最後まで読んで、自身の身体と髪の毛の健康管理に役立ててください。

薄毛の原因にもなる肥満は2種類に大別される

肥満は健康にさまざまな影響を与えるだけでなく、髪の毛の健康へも悪影響を及ぼします。

肥満とは体内に過剰な脂肪が蓄積された状態を指し、一般的にBMI（体格指数）が25以上の場合に肥満と診断されます。

BMIの計算方式は以下の通りです。

BMI＝体重÷（身長✕身長）

厚生労働省の「国民健康・栄養調査」によると、日本の成人男性の肥満者は約3割、女性は約2割を占めており、特に男性の肥満者は増加傾向にあります。

肥満には「症候性肥満」と「単純性肥満」の2種類があります。それぞれの種類によって薄毛との関連性や対処法が異なるため、まずは自身の肥満の原因を知ることが大切です。

参考

令和4年「国民健康・栄養調査」

症候性肥満

症候性肥満は、何らかの病気や薬物の副作用によって引き起こされる肥満を指します。

食べ過ぎや運動不足が原因の単純性肥満と異なり、特定の要因が背景にあるため、根本的な解決のためには、原因となる疾患の治療が重要です。

症候性肥満を引き起こす主な病気としては、以下が挙げられます。

• 甲状腺機能低下症
• クッシング症候群
• 多嚢胞性卵巣症候群

これらの病気はホルモンバランスの乱れによって代謝が低下し、体重が増加しやすい状態を引き起こします。

また、一部の薬剤も体重増加を引き起こすことがあります。ステロイド剤や抗精神病薬などが代表的な例です。

単純性肥満

単純性肥満は生活習慣の乱れが主な原因となって起こる肥満です。現代社会において、食生活の欧米化や運動不足が進んでおり、単純性肥満は増加傾向にあります。

単純性肥満の原因は、高カロリーな食事の摂り過ぎや甘い飲み物の過剰摂取、外食の増加、運動不足などです。

高脂肪食や高糖質食の摂取過多は、エネルギー過剰となり、体内に脂肪を蓄積させます。特に加工食品や菓子類、揚げ物などは高カロリーなため、頻繁な摂取は肥満のリスクを高めます。

これらの要因が長期にわたって続くと、体内に脂肪が蓄積し肥満へとつながるのです。

肥満はなぜ薄毛に関係する？原因を紹介

一見関係がないようにも思える肥満が薄毛につながる原因を、以下で解説します。

• 高脂肪食による肥満は毛の再生を抑制して毛周期を乱しやすいから
• 頭部の汗・皮脂が多く分泌されて頭皮環境が悪化しやすいから
• 悪玉コレステロール値が高まると頭部の血行が悪化するから
• 睡眠の質が低下して髪の毛の成長に悪影響が出やすいから
• 砂糖・糖質を多く含んだものの摂り過ぎは薄毛にも悪影響となるから

高脂肪食をよく食べる場合は毛の再生が抑制されて毛周期を乱しやすいから

太り過ぎると髪の毛が薄くなる原因の一つは、高脂肪食の過剰な摂取です。

髪の毛は生え替わる「毛周期」と呼ばれるサイクルを繰り返しますが、高脂肪食は毛周期を乱し、髪の毛の再生を妨げる可能性があるのです。

毛根には髪の毛の成長を司る毛包幹細胞が存在し、毛包幹細胞が活発にはたらくことで新しい髪の毛が生え変わります。

しかし、高脂肪食を摂り過ぎると毛包幹細胞がダメージを受け、髪の毛の再生のための活動が低下します。これは、高脂肪食に含まれる成分が体内で悪影響を及ぼす物質を作り出し、髪の毛の再生に関わる細胞を傷つけるためです。

つまり高脂肪食は髪の毛の毛周期を乱し、結果として薄毛を進行させる可能性があるといえます。

参考

高脂肪食などによる肥満が薄毛・脱毛を促進するメカニズムの解明｜東京大学医科学研究所

男性型脱毛症と育毛有効成分

頭部の汗・皮脂が多く分泌されて頭皮環境が悪化しやすいから

肥満による汗と皮脂の過剰分泌は、頭皮環境を悪化させ、薄毛を引き起こす原因となります。

肥満の方は基礎代謝が低下しているため、体温を下げるために汗をかきやすくなります。また、脂っこい食事を好む傾向があるため、皮脂の分泌が増えやすい点も特徴です。

汗や皮脂が頭皮に溜まると、雑菌が繁殖しやすい環境が作られます。特に黄色ブドウ球菌は、皮脂を栄養源として増殖し、頭皮に炎症を引き起こすことがあります。

頭皮の炎症は毛根にダメージを与え、薄毛を促進する原因へとつながるのです。

参考 男性型脱毛症「AGA」患者の頭皮に 粘度の高い皮脂成分（トリグリセリド）が多いことを発見｜大正製薬

悪玉コレステロール値が高まると頭部の血行が悪化するから

肥満は悪玉コレステロール値の上昇を引き起こしやすいため、頭皮の血行不良につながります。

悪玉コレステロールは、血管に溜まりやすく動脈硬化の原因となるコレステロールです。肥満になると脂肪細胞が過剰に増加し、体内の脂質代謝が乱れることで、悪玉コレステロールが増加します。

悪玉コレステロールは血管壁に付着し、血管を狭く・硬くします。結果として頭皮の毛細血管が詰まりやすくなり、毛根への栄養供給が滞るのです。

毛根には、髪の毛の成長に不可欠な毛母細胞が存在します。毛母細胞は、血液から栄養素を吸収し、新しい髪の毛を作り出す役割を果たす細胞です。

悪玉コレステロールによって血行が悪くなると、毛母細胞へ十分な栄養素が届けられなくなり、結果的に髪の毛の成長が阻害されてしまいます。

睡眠の質が低下して髪の毛の成長に悪影響が出やすいから

肥満は睡眠の質を低下させ、髪の毛の成長を妨げる原因の一つといえるでしょう。

皮下脂肪が厚くなると、睡眠中に気道が狭くなり、いびきや睡眠時無呼吸症候群を引き起こすことがあります。これらの睡眠障害は睡眠の質を著しく低下させ、成長ホルモンの分泌を抑制します。

成長ホルモンは、髪の毛の生成に不可欠なホルモンです。しかし睡眠が浅かったり、何度も覚醒を繰り返したりすると、成長ホルモンの分泌が十分に行われず髪の毛の成長が遅れてしまうのです。

さらに、睡眠不足は代謝の低下にもつながります。代謝が低下すると髪の毛に必要な栄養素が十分に供給されず、髪の毛が細くなったり、抜けやすくなったりする可能性が高まります。

参考 睡眠と代謝の密接な関係 ｜筑波大学

砂糖・糖質を多く含んだものの摂り過ぎは薄毛にも悪影響となるから

糖質の摂取は、体内のホルモンバランスを乱し髪の毛に悪影響を与えかねません。

砂糖や糖質を過剰に摂ると血糖値が急上昇します。急激な血糖値の上昇は、インスリンの過剰分泌を促し、体内のホルモンバランスを乱します。

その結果、男性ホルモンのバランスが崩れ、AGA（男性型脱毛症）を発症する可能性が高まるのです。

ビールなどのアルコール飲料や、白米やパンなどの炭水化物も、糖質を多く含む食品です。これらの食品を過剰に摂取すると血糖値の急上昇につながり、薄毛のリスクを高める可能性があります。

参考

 The Association between Sugar-Sweetened Beverages and Male Pattern Hair Loss in Young Men｜MDPI

加齢・女性のライフイベントも肥満・薄毛の原因となりうる

加齢や出産、更年期といった女性のライフイベントは、ホルモンバランスを大きく変動させ、肥満や薄毛を引き起こす可能性を高めます。

女性ホルモンは新陳代謝を活発にし、脂肪の燃焼を促すはたらきを持ちます。しかし加齢や女性特有のライフイベントによって、女性ホルモンの分泌量が減少すると、代謝が低下し脂肪が蓄積されやすくなるのです。

また、女性ホルモンは髪の毛の成長にも深く関わっています。女性ホルモンが減少すると、髪の毛が細くなったり、抜けやすくなったりする可能性が高まります。

特に、更年期は女性ホルモンの分泌が急激に減少するため、肥満だけでなく、薄毛のリスクも高まる時期といえるでしょう。

参考 

女性ホルモンとライフステージ

更年期｜一般財団法人 女性労働協会

肥満を改善するためのダイエットもやり方次第で薄毛を進行させる

肥満を改善するためにはダイエットが必要ですが、間違った方法でのダイエットはかえって薄毛を進行させる可能性があります。

偏った食事制限や過度な運動は、髪の毛の成長に必要なタンパク質やビタミン、ミネラルの不足につながりかねません。栄養バランスが崩れることで、髪の毛は細く弱くなり、抜けやすくなります。

さらに、ダイエットによる極端な食事制限は、大きなストレスを与えホルモンバランスを乱します。ホルモンバランスの乱れは、髪の毛の成長に悪影響を及ぼし、さらに薄毛が進行する可能性が高まるでしょう。

また、極端なダイエットによる体重の急激な減少は、身体にとって大きな負担となり、自律神経を乱し薄毛を悪化させることもあります。

肥満は薄毛以外の健康被害にもつながるので改善が必要

肥満は薄毛だけでなく、さまざまな深刻な健康問題を引き起こす可能性があります。

肥満によって引き起こされる代表的な健康リスクは、以下が挙げられます。

• 糖尿病や高血圧などの生活習慣病
• 心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患
• 脂肪肝や胆石症などの消化器疾患
• 睡眠時無呼吸症候群（SAS）や喘息などの呼吸器疾患

これらは健康状態を悪化させ、間接的に薄毛を進行させる可能性があります。例えば慢性的な炎症状態は、毛根にダメージを与え抜け毛を促進するといわれています。

肥満は単に見た目の問題だけでなく、さまざまな健康リスクを伴う深刻な問題です。薄毛に悩んでいる方はもちろん、そうでない方も健康のために肥満の解消に取り組むことが重要です。

参考

肥満｜慶応義塾大学病院

「肥満」による「ぜん息の発症・悪化」の危険性を、しっかり理解しておきましょう（全2回）①

肥満と薄毛のいずれも予防したい方向けの対策

肥満と薄毛のいずれも予防したい方は、以下の対策を実践しましょう。

• 栄養バランスがとれた食事を摂る
• 十分かつ質の高い睡眠をとる
• 日頃からできる運動習慣を取り入れる

それぞれ詳しく解説します。

栄養バランスがとれた食事を摂る

肥満と薄毛の両方を予防するためには、栄養バランスのとれた食事を心がけることが大切です。特に薄毛に良い影響を与える栄養素を意識した食事を摂ることで、より効果的に予防できます。

髪の毛の成長に良い栄養素を多く含む食品としては、以下が挙げられます。

栄養素	効果	豊富に含まれる食材の例
タンパク質	髪の毛の主成分。髪の毛の成長を促進する	肉、魚、卵、大豆製品、乳製品
鉄分	健康な髪を維持するのに役立つ	赤身肉、レバー、豆類、海藻類
亜鉛	髪の毛の生成に関わる酵素のはたらきを助ける	海産物、肉類、ナッツ類
ビタミンB群	新陳代謝を活発にし、髪の毛の成長を促進する	肉類、魚類、卵、大豆製品、緑黄色野菜

これらの栄養素をバランス良く摂取することで、髪の毛の健康を保ち薄毛を予防できるでしょう。

参考 栄養に関する基礎知識｜国立循環器病研究センター

十分かつ質の高い睡眠をとる

質の高い睡眠も、肥満と薄毛の両方を予防するのに欠かせません。

睡眠不足になると髪の毛の成長を促す成長ホルモンの分泌が低下し、髪の毛が細くなったり、抜けやすくなったりする可能性があります。

また、睡眠不足はストレスホルモンであるコルチゾールの分泌を増加させ、頭皮環境を悪化させる原因にもなります。そのため、十分な睡眠をとることで、代謝が向上し脂肪燃焼を促す効果も期待できるでしょう。

質の高い睡眠をとるためには、規則正しい生活リズムを心がけ、寝る前のスマホの使用を控え、リラックスできる環境を整えることが重要です。

参考 健康づくりのための睡眠ガイド2023｜厚生労働省

日頃からできる運動習慣を取り入れる

肥満と薄毛の両方を予防するためには、日頃から運動習慣を身につけることが効果的です。

運動は血行を促進し、頭皮に栄養をしっかりと届けるはたらきがあります。運動によって分泌される成長ホルモンは、髪の毛の成長を促す効果も期待できます。

具体的な運動としては、ウォーキングやジョギングなどの有酸素運動がおすすめです。有酸素運動は脂肪燃焼効果が高く、肥満予防にも効果的です。

また、筋トレで筋肉量を増やすことで基礎代謝が上がり、太りにくい体質へと改善されます。

適度な運動は心地良い疲労感をもたらし、質の高い睡眠を促します。良質な睡眠を得ることで、薄毛予防にもつながるでしょう。

痩せたとしても必ず薄毛が治るわけではない

肥満は薄毛の一因となる可能性がありますが、単純に体重を減らしたからといって、必ずしも薄毛が改善されるとは限りません。

薄毛の原因は、肥満以外にも遺伝的な要因やホルモンバランスの乱れ、生活習慣の乱れ、ストレスなどさまざま考えられます。

肥満によって薄毛が進行していた場合、痩せることで改善が見られる可能性はありますが、他の原因がある場合は必ずしも改善されるとは限りません。

特に、脱毛症などの病気の場合には、専門家による治療が必要となります。そのため、薄毛の原因を特定し、適切な治療を受けることが大切です。

慢性的な肥満・長期的な薄毛はすぐに医師へ相談

肥満が原因で薄毛が進行している場合、ダイエットや生活習慣の改善によって、ある程度改善が見られることがあります。

しかし長期間にわたって肥満が続いている場合や、薄毛がなかなか改善されない場合は、思いもよらない重病が潜んでいる可能性も否定できません。

例えば、甲状腺機能低下症や多囊胞性卵巣症候群などの病気によるホルモンバランスの乱れが原因で薄毛が進行している可能性も考えられます。

もし慢性的な肥満や長期的な薄毛に悩んでいる場合は、すぐに医師へ相談しましょう。

肥満と薄毛の関係性を理解して早めに予防しよう

肥満は高血圧や糖尿病などの病気のリスクを高めるだけでなく、薄毛の原因にもつながります。

肥満と薄毛は、どちらも生活習慣と深く関わる症状です。バランスのとれた食事や質の高い睡眠、適度な運動など、健康的な生活を送ることで肥満と薄毛の両方の予防が目指せます。

しかし、生活習慣を見直しても肥満や薄毛が改善されない場合は、できるだけ早く専門家へ相談しましょう。専門家はあなたの状態を詳しく診察して原因を突き止め、適切な治療法を提案してくれます。

肥満と薄毛は早期に適切な対策をとれば、改善できる可能性が高い症状です。本記事で紹介した情報を参考に、健康的な生活習慣を心がけ予防に努めましょう。